「やさしい心を引き出したくて」朝日新聞大阪版にインタビュー記事が掲載されました。2016年1月22日

朝日新聞 朝刊 大阪版 生活面 2016年1月22日

やさしい心を引き出したくて
「マタニティーマーク」先駆け「BABY in ME」
考案者・村松さんに聞く

「BABY in ME」というマークを知っていますか。「妊娠しています」と周囲に示すマークで、厚生労働省が選んだマタニティーマークに先駆け、1999年に発表されました。17年前から使われ続けている草分けのマークは、どんなふうに生まれたのか。考案した横浜市在住のライター村松純子さん(52)に聞きました。

ハートをおなかに抱く女性が線画でユーモラスに描かれ、「BABY in ME」とうたうマークだ。「妊婦は赤ちゃんをおなかに抱っこしているのと同じだと思って、赤ちゃんをハートで見える化したんです。かわいい~って見た人が笑顔になるよう、おしゃれに雑貨っぽく」

■友人のつわり 機に

考えるきっかけは20年ほど前。友人がつわりで気持ち悪くても「二日酔いか」としか思われず、電車通勤に苦しんでいた。自身はアレルギーがひどく、電車で立つのもつらかった。しんどさが伝わらない苦しさは友人も自分も同じだな。「つらいですマーク」を作ろう!と思い立った。

妊婦を対象としたマークにしたのは、赤ちゃんの命を守ることが大事だと思ったから。「マークをつけた妊婦にだれかが席を譲る場面を見た人が、別の機会に高齢者や内部障害者へ気遣いをするかもしれない。やさしい気持ちを引き出す、気づきの一歩になれば」

押しつけがましくなく、つける女性も楽しくなるデザインをと、1年余り試行錯誤した。できたのは99年、36歳のとき。いきなりは量産できず、ロゴ入りTシャツ20枚を作ったのがスタートだ。

2年後にバッジを作り、新聞や雑誌でとりあげられて話題に。北海道釧路市(いまは終了)といった自治体や病院で配られるようになった。東京都千代田区は2003年から配布を続け、妊娠を届け出たときにバッグチャームが渡される。

当初、鉄道会社などにPRしても、「妊娠中と示すのは恥ずかしい、と抵抗感が妊婦にあるだろう」と後ろ向きだったという。ところが、「席を譲ってもらった。友だちに贈る」とネット販売で手に入れた使い手がブログなどで評判を広めた。05年には、自治体の配布分も含めてバッジが1万個ほど売れた。

■社会の意識、変化

「バッジをつけてくれた人たちがいるから、社会の意識が変わっていった。堂々とマークをつけようよ、と。見る側も、妊婦さんに配慮しようと」と話す。グッズは約30種に増え、バッジは年間200個ほど売れ続けている。

近ごろ、妊婦の間で厚労省が提唱するマタニティーマークがつけにくいという意見があることについて、「妊婦に席を譲る場面も見かけるけれど、譲られないことや、暴言を吐かれたという極端な話がツイッターで拡散されやすい」と話し、妊婦へのまなざしは基本的に優しいと考える。

村松さんには子どもはいない。いつかマークをつけたいという思いもあった。「かけがえのなさがわかるからこそ、子どもの命が奇跡だと実感するし、妊婦を気遣えるんじゃないかと思う」

妊娠中の体の変化が、夫や友人にもわかるカレンダーの無料アプリも作った(詳しくは公式サイトhttps://www.baby-in-me.com/別ウインドウで開きます)。周囲の人も妊娠や出産について知ることで、想像力がもっと働けばと願う。

■独自のマーク配る自治体も

厚労省のマークがスタートした06年は、子育て支援の動きが盛り上がった年で、独自マークを配り始めた自治体もある。愛知県豊田市のマーク「まーむ(母夢)」のデザインは、05年に募集して選ばれた中学3年生の作品だ。小学4年~中学3年生を対象に、夏休みの宿題を想定して募集した。「思春期の子に命について考えるきっかけにしてほしかった」と子ども家庭課。厚労省によるマークと独自マークが裏表になったストラップと、車につける独自マークのグッズを配布している。

群馬県の前橋市・高崎市は連携して「おなかの赤ちゃんをみんなで守る事業」を繰り広げる中、マークを公募して選んだ。チェーンホルダーと車用ステッカーがある。(河合真美江)